彼が銃を愛する理由
「師匠って何故銃を使うんですか」
彼が銃を愛する理由
「あ?銃?」
もそもそとパンを齧りながら師匠はだるそうに答えた。
「そう、銃。師匠って俺と会ったあのときから銃を使ってたじゃないですか」
「ん〜さあなんでだろうなァ」
腰に鈍い光を放つ2丁のリボルバーにふと目をやる。
真っ黒で、それでいて重々しい銃を俺はまだ使いこなすことが出来なかった。
「殺す武器なんざ、まだテメエにゃ必要ねーよ」
「殺す武器?」
「お前には人を殺さないで自分の身を守る使い方しか教えちゃいねえもん」
不機嫌そうに師匠は水を煽る。
「…それ、結構古い銃なんですか」
「…気になるか?」
はい、と小さく返すと彼は腰のリボルバーの1つを俺に手渡した。
「落とすなよ、壊すなよ?」
「わかってますよ、落としませんし壊しませんって」
疑わしい目で見てくる師匠に一瞬殺意が芽生えた。
「…そりゃ、まあ軽く90年ぐらい前のもんかな」
「…90年?」
「そ。銃が出回った頃のリボルバーだ」
「師匠、これ…」
「まだテメエにゃやんねーよバカ」
何故言う前にわかったのだろう、顔にも出ていたのだろうか。
不思議そうな顔をして見ていると師匠は噴出すように笑い出す。
「お前はホント顔に出やすいよな〜」
「…ふん」
「拗ねるなっつうの。…お前が自分で命を守らなくちゃいけなくなったその時に、お前に渡すよ」
師匠は薄く微笑んだ。
妙に儚さを覚えるようなそんな笑い方だった。
「…それってどういう意味ですか」
「…俺が死んだ時。…っまあ俺はそうそう簡単にやられねーけども!」
「師匠って死なないんじゃないんすか」
冗談にしては性質が悪い、と呆れて聞くと師匠は笑うのをやめて静かになる。
「…たった1つだけ、あるさ」
「んん?1つ?」
「まー国だとか世界の上層階級の連中は知ってるかもなァ」
「じらさないで教えてくださいよ!」
「やだよ俺お前に殺されるのやだもん」
「ハア?」
「ま、とにかく人の弱みなんて探るもんじゃありませーん」
「アンタ人じゃないだろ」
「だまらっしゃい。さ、早くねるぞ」
それ以上口を開くこともない、とでも言うように師匠はベッドにどかりと体を横にして背中をむけた。
それは、無言の拒絶だった。
(ある雨の日の夜のおはなし。)
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