移り行く、そして変わり逝く。
街も、人々も風景も。
もう何十年何百年もこの姿形を変える世界を見続けている。
ついこないだまで茶呑み友達として関わっていたかつては少女だった女性も亡くなった今、私の元へ訪れる人間はいない。
衣擦れの音を立てながらゆっくりと襦袢の上から着物を着付けていく。
もはや訪ねてくる者など居ないというのに、わざわざ着飾るなんて、と自嘲しながら森に目をやった。
さらさらと木々の間をすり抜ける風を肌で感じた、生きていると感じる、―・・・こんなにも永い永遠を私は生きている。

一度や二度では済まされない数の戦による爪痕をこの私の住む森にも残された。
時には火事、人々が逃げ惑いそしてこの森に行き着き、迷い込んだ事もある。
元は人であったこの身でも何故戦なんかするのか理解に苦しむ、そうまでして権力や名誉が欲しいのかと。
独り言に近い形でそれを唯一の茶呑み友達であった老婆に聞かせると、彼女は苦笑いしながらこう答えた。

「国を変えようと、もっと良い国にする為に自分を主張する形が戦になってしまっただけだ」
戦は確かに良い事ではないけれど、こんなにも多くの若者や人々が国を思い、国を変えたいと名乗り上げてくれるのは良い事だと彼女は言っていた。
きっと人であったならそれもまた理解が出来たのだろう。
私は多くの時を生きすぎたのだ、もはや人であらざるこの身は強いて言うならば化け物に近い。
悪霊と言うには執着が無い、妖怪と言うには無害、ならば化け物なのだろう、そう思うとなんだか滑稽だった。
くすくすと一人で笑っていると古い縁側がきしりきしりと音を立てながら同意するように鳴く。
私がまだ人間の幼い子供であった頃から住んでいたこの家、あの頃は両親も居て二つ上の兄も居た、下には三つ離れた弟もいた。
五人で談笑しながら囲んだ食事や、泥まみれになりながら耕した畑はもう無い。
かつてはこの森も小さいながら集落だった。
隣の家のお兄さんに憧れて、毎日会う度に兄の背中に隠れながらした挨拶、集落の子供達とした手遊びも今はもう古い過去。

もうそろそろ、いいだろうか、もうこの集落であった場所を守り続けなくてもいいだろうか。
ざわり、ざわり。
森は答えない。
裸足のまま縁側から腰を上げた、じゃりっと音を立てて足が地面に着く。
冷たい土の感触が心地良い、もう少しこのまま歩いてみよう、とやけに意気込む。
寂しい、寂しい。
森が囁く、誰かを恋しい寂しいと歌うように私に語りかける。
私も同じだ、と応え掛けるように森の声に耳を傾けた。
どくり、と大きく心臓が揺れる。
もう人であらざる者の身であるというのに、まるで人間の末路のようだなと自嘲した、そう、まるで私が老いて死に逝くような感覚。
はあ、と息を吐き捨てる。
重々しく零れた吐息は真冬の温度と混ざり合い白く溶けていく。
どくん、どくん。
早鐘を打つ心臓は死に急ぐように私の身体を急がせる。
なんとなく感じていた、自分の死の予感。
もしかしたら私は人ではない身とはいえいつか死んでしまうのではないかという恐怖。
なんだか可笑しな気分になってくるのだ。
この集落があった場所で何人もの死を見届けてきた、近しい者も遠き者も全て全て。
この目で見届けてきたのだ、それが今は何だろう。
誰も見届けてくれないという寂しさが胸を刺す。
苦しい、痛い。
心臓ではない何かが傷む、ああ私は死んでしまうのだ。
やんわりと進めていた足が止まった。
膝がゆっくりと落ちていく、重力に従って胴体、頭、腕が土と一体化するような妙な感覚に襲われる。
その時、ふと思ったのだ。
こうやって死ぬのも悪くないと。
大地に戻る、帰るのだ。
ふと嬉しくなり口元がゆるりと上がっていく。
還ろう、この地へ。
来世こそ一人ぼっちではない世界に。

(願わくば、)








灯り一つ無い部屋で暗雲に包まれた夜空をぼんやりと眺めた。
寝台から抜け出してどのぐらい経つのかわからないが、先ほどまで温まっていた身体が嘘のように冷たく凍えて指先はかじかんだまま握られている。
―・・・彼女と不毛な関係を築き上げて、早3年程が経った。
傷の舐めあいと言えばまだ綺麗な言い方で、実際は寂しさを埋めるだけの、言い表す事のできないような不安が常に纏わりつくような、そんな曖昧な関係。
誰でも良かったと言ったら嘘になる、けれど言い方を変えれば彼女で無くても構わないのが現状だった。
恋人でも無い、かといってパートナーでもない、愛人でもない、身体関係だけの存在という訳でもない、その曖昧さが私は気に入っていた。
彼女はおおらかで、穏やかで人を多く受け入れる事のできるような器量を持っていて、ふわりと揺れるウェーブの掛かった飴色の髪と整った相貌は男女関係無く好感を持たれる存在だった。
いつも微笑みながら私の名前を呼ぶ、大勢の男女に囲まれながらも私の手を、私だけを呼ぶ彼女に少なからず優越感を持っていた。
彼女は時折不安を抱え込むとやや強引に私の腕を取り、何も言わずに彼女の部屋に連れ込まれる。
声を出す事も無く終わる情事に至っては、悲しいというより虚しかった。
それを彼女は知ってか知らずか、シーツの波にただただ身を任せたまま虚ろに彼女を見る私を同情するような目で見下ろすのだ。
彼女と初めて関係を持ったのは、高校生の頃だった。
女子高というだけあって、周りにはそれを匂わせる関係を持っていそうな生徒達はたくさん居た。
私も憧れのような恋のような微妙な感情を一人の生徒に向けていた事があった、・・・結局疎遠なままで終わってしまったが。
私が思いを寄せていた同級生は、今の関係を持つ彼女の双子だった。
二卵性の双子だけあってそこまで似ているという訳ではないが、姉妹だからかなんとなく好きだった同級生の面影をじわりと思い出させられる。
いつだったかに寝ぼけて同級生の名前で呼んでしまった時には、彼女はひどく傷ついた表情をしていた。
言葉を取り戻す事ができるのなら、すぐにでも引っ込めてしまいたかった。
「此処にいたの」
びくりと大げさに肩を揺らして振り返る。
彼女が青白い顔をしながらそこに立っていた。
「起きたんだ」
「ええ、起きても隣に居なかったから、帰っちゃったのかと思った・・・こんな所で何してるの?冷えるわよ?」
彼女は自身が羽織っていた薄手のカーディガンをふわりと私に被せた。
それを黙って受け取り、まだそこに佇む彼女に目をやる、彼女は困ったように笑って「早く戻りましょう」と問いかけた。
小さく頷くと彼女はまた私の腕を優しく取って、寝室へと誘った。
終始無言の私が気になったのか、ベットに腰掛けると私の顔を覗き込むように見下ろす。
「どうしたの?」
「・・・」
「なんだか今のあなたって、」
恋に悩んでるあの頃みたい、と彼女は笑った。ああ、なるほど、そういうことなのか。心の奥底に沈んだ鉛のような重みは嘘のように溶けていく。
「・・・ねえ」
「どうしたの?」
「アンタに今度は恋したみたい」
「あら今更ね、あたしはとっくにあなたに恋してたけど」
呆れたように言う割りにその嬉しそうな表情はなんだ、と問い詰めたい、けれど言う前にやんわりと唇は塞がれた。
不毛な関係に終わりは告げられた、しかしまだ夜は長い。








最近、足音を立てず気配も無い何かに俺は追われている。
ふいに振り向くがどこからか視線を感じるのだ。
じわじわと焦る気持ちが逃げろと訴えかける、膝に力が込められ勢いよく駆け出した。
自慢じゃないが中学高校とずっとリレーの選手にも選ばれ陸上部だった俺は脚には自信がある、なんだか知らない得体の知れないモノに追いかけられようがきっと振りほどけるはずだ。
ぐんぐんと周りの景色が勢いよく流れていく、ゴールは勿論自宅近所の公園だ。
土を踏みしめて公園に入り込んだ、ゴール!
・・・だがしかし嫌な感じはまだ消えない、しかも今までと違って今度は背後に何かがいる気配。
嘘だろ、この俺がどうして追いつかれてしまったんだ。
ぶわりと冷たい汗が米神から流れ落ちる。
これは、何者なんだ。
覚悟を決めて振り向いた、そこに居たのは・・・。

「にゃぁ」
「・・・」
「・・・なんだよ」
振り向いた先には三毛猫、どうみても猫だ。
くりくりとした丸い目と丸い顔が愛嬌のある猫だ。
まさかこいつなワケないだろう、とほっと安堵して自宅に向かう。
「・・・」
「・・・」
「おい」
「にゃあ」
なんでお前は着いてくるんだよ!と猫に問いかけるもキラキラとした眼差しにげんなりと息を吐く、まさか本当にこいつ俺を追いかけていたのか。
仕方なくポケットを漁るが何も無い、仕方ない。
勢いをつけて再び俺は走り出す、ちらりと振り向けば猫も四本の足を駆使して走り出す。
以降、俺と猫が度々遭遇し戦いになる事は誰も知らない。









「あ、」
小さく声を上げた隣の少女を見れば、目線は宙に向いていた。不審に思いつつもその目線を辿れば赤い風船が空高く舞い上がっていた。
「風船」
「あーあ、誰だろ飛ばしちゃったの」
「さあ、小さな子供とかじゃないの」
半ばいい加減に答えると少女は唇を尖らせながら僕を見る、一体今の答えの何が不満なんだ、と見返してやるとすぐに目は反らされた。

「・・・なんかあの風船ってアンタみたいだよね」
「は?なんで」
「手を離せばすぐにどっか行っちゃう所とか、ふわふわ浮いて足に着いていないような所が」
「なんだそれ、まるで僕が幽霊みたいじゃないか」
「幽霊となんか手は繋げないでしょ」
「そういうことじゃなくて、」
「ねえ、もういいじゃない」
「・・・え?」
被せるように僕の言葉を遮った彼女の目線はまだ風船に向けられている。

「もう、自由なんだからそんな空高く舞い上がらなくても」
「・・・」
その言葉は僕でも、風船にも向けられていない事はなんとなくわかっていた。
風船に誰を重ねているのかわかっている僕はそれに対して何か言う程無粋な奴じゃない、そう、これはただの彼女の独り言なんだと言い聞かせる。
虚ろな目のまま彼女は遠ざかる赤をまだ見つめていた。
なんだか落ち着かなかった、あの赤はアイツじゃないのに苛々した。

「ほら、行くぜ」
やや強引に彼女の腕を引っ張った、小さく唸りながら少女はようやく目線を地上に戻した。
「・・・風船、どこで配ってるんだろ」
「欲しけりゃ買ってやるぞ」
ヘリウムの入ったガスではなく、量産型のだけどと付け足す。
「・・・ごめんね」
小さく微笑んだ彼女にずきりと心が痛んだ、ああまた負けたのか。

振り向くと彼女はまたあの遠い赤を見ていた。


(こっちを見て、の一言が僕はいえない)









「ねえ、今日は天気がいいわ」
幼さをまだ顔に残した、やや年下らしき少女を膝の上に乗せたまま、女は言った。
少女はそれに対して何も返すことなく、瞳は閉じられたまま微動だにしようとしない。
「ほら、鳥が今日も来たわ・・・あなたに会いに来てるのね」
嬉しそうに女は物言わぬ人形のような少女を撫で付けながら言う、春の昼下がりの事だった。

「・・・皇女様」
重々しく騎士が口を開いた、女は「あら居たの?」と軽い口振りで騎士を見る。
「皇女様、そろそろ謁見の者が参ります」
「・・・あらそう、ならこちらの部屋に連れてきてちょうだい、今日は天気がいいから・・・、彼女もそう望んでると思うの」
「ねえ、そうでしょ?」愛しそうに女は少女の頬を撫でる、人形のような少女は相変わらず言葉を発する事も閉じられた瞳を開く事も無かった。
騎士は今まで存在しない者として少女を一切に視界に入れなかったが、その言葉に少女を一瞥する。軽蔑、侮蔑、恐怖、それぞれが入り混じった不気味なものを見る目で彼は少女を見た。
皇女と呼ばれた女はそれを一切気にすることなく、「さあ出て行きなさい」と優しく促した、騎士は黙って皇女の部屋を後にした。


「・・・皇女様、まだあの人形を大事に抱えてるの?」
「やだ、本当に?でもあれ人形じゃないんでしょ?」
「ああそういえば・・・あの方、皇女様の右腕とも言われた方なんでしょ?人形じゃないはずよ?」
「じゃあなんで人形でもないのに皇女様の膝の上なんか座ってるの?おかしいじゃない」
「人でもなく人形でもないわ・・・、でも確かにあの人は死んでるはずなの」
「どういうこと?」
「彼女はとっくに・・・、4年も前に殺されているはずだもの」











痛ましい傷跡だ、と彼女は苦笑いしながら私の傷跡をそっと指でなぞる。
その傷跡はかつてこの国が戦場だった頃、ボロ雑巾の如く血みどろで戦った時の証だ。
もう五年も前とはいえど、傷跡は癒えてもまだ生々しくうっすらとした赤を保っている。

「まだ、ここいたいの?」
「いや、いたくない」
「ならもう未練はないわね」
それはどういう意味だ、と聞く前の事だ。
彼女がずぶりと一振りの長剣を私の腹に突き刺したのは。
「どういう、つもり」
「私はここに居たいのか、と聞いたの」
「・・・」
「忘れないわ、あなたのこと、かつて戦場で仲間だったあなたのこと―・・・そして私の恋人の命まで奪ったあなたのことを」
憑き物がとれたような晴れ晴れとした笑顔。
がくりと崩れる膝が悲鳴を上げる、ああもうどこもかしこも力が入らない。
私はあの五年前の戦場である男を殺した。
敵国の部隊長だったその男と対峙した時、命乞いをされたのだ。
「俺には妻となる女がいる、頼む見逃してくれないか」と。
私はそれをためらいもなく首を刎ねた、この国に仇となる存在は悪であると信じて疑わなかったからだ。
しかしそれは終戦後に知らされた真実によって、この国が悪であった事を知った。
惨敗だった、他国が援護しこの国は囲まれ敗北を余儀なくされた。
戦争が終わり、やがて国は復刻へと足を向けた、活気も段々と戻っていったが人々に向けられた爪痕は深く大きかった。
―その結果がこれなのだろう、ああ深い後悔の渦に沈められたこの身はようやく終わるのか、そう思うとなんだか笑いが零れてくる、ゆっくりと目を閉じる、ようやく終わるのか。
「さようなら王女様」
女が掠れた声で私を呼んだ、どうしてそんな悲しい声で言うのだろう、もう一度だけ彼女をこの目に刻もう、そう思いふわりふわりと浮く意識の中で目を開ける。

「ぁぁ、」
すでに目の前の彼女は息絶えていた。
げほげほと大きく咳き込んだ、肺にまで届いた長剣が赤く鈍い光を放つ。
ずるい、私よりも先に死ぬだなんて。そんなのあんまりだ、私を殺す為だけに生きていたくせに私を見届けずに逝くなんて。
でもふと思った、意地の悪い彼女の事だきっと最初から考えていた嫌がらせなのかもしれない、最早声の出ぬ声帯が喉を震わせる。
次に目を開けるときは、幸せな時代であることを願いながら。












彼女は強い人だった。
私のような平々凡々と暮らした、生温かい生ぬるい水に浸かった生活とは違い、彼女は自ら茨の道を歩んできた女性だった。
そして今も尚、彼女は痛みを背負おうとしている。
―私の代わりに。

「いいのよ」
いいの、と繰り返して彼女は言う、まるで言い聞かせるみたいだ。
目を伏せた彼女の表情は窺えず、真っ白の頬は真冬の冷たさに赤く染まる。
「・・・どうして、行かれるのですか」
私の代わりに。
駅の改札口で彼女は一人切符を一枚買った。
手持ち無沙汰になった彼女は切符を掌でもてあそぶ。
「だって、あなたの代わりはいないじゃない」
困ったように笑う彼女は、眉を八の字にして呟いた。
言葉にならない悲鳴のようにも聞こえるその言葉が私の胸を貫いた。
「それは、」
あなたにも言えることじゃないですか、そう言いたかった。
言えなかった。
彼女には帰る家もない、もう何年も前から彼女は自ら愛する家族を捨ててきたのだ。
そうしなければ彼女の両親は幸せになる事ができなかった、その幸せを壊す勇気など彼女にはなかったのだ。
彼女には愛するべき人もいない。
私と違い、彼女は彼女を幸せにしてくれるような人々を拒み続けた。
まるで自分は幸せになる価値などないのだと言うかのように。
まるで気まぐれのような、腐れ縁のような曖昧な関係で続いたこの友人関係も、彼女の気まぐれによって起こされたような不思議な関係だった。
彼女にとっての唯一は私だけであるような特別な優越感に浸っていたのかもしれない。
「・・・わかっているでしょう、私が私の思う価値ぐらい」
「・・・」
何も言えず立ちすくむ私をあざ笑うかのように彼女はぽつりぽつりと口を開く。
「私は、わたしに対して自分の価値を見出せないんだよ。誰かに必要とされて、誰かに愛されて、その逆に誰かを愛し、必要としている人がもしも命を落としかけたなら、私は自分の
命を代わりに差し出してもいいとさえ思ってる、それだけ私は何にも執着しないんだよ。」
だからって私の代わりに貴方は今からその命を投げ出すのか。
ぐらりときた頭の衝撃に足を踏ん張りながら彼女を見据える。
「・・・それで、いいの?」
「その答えを、貴方は聞きたいの?」
言い返せない。
きっとこの答えを聞いたなら、私はこれから一生彼女の死を後悔しなければならない。
きっと何十年、何百年経っても私は彼女に縛られ続けてしまうのだ。
それが何より怖かった。
だから私は彼女に気休めの言葉やまるで棒読みのような引き止める言葉を彼女に掛けようとしていたのだろう。
―なんて、浅はかなんだろう。
彼女はそれを肌で感じ取っていたのだ。
何よりも他人の感情に敏感な彼女は、私の薄汚く淀んだ感情までも読み取っていた。
「・・・それでも、私の代わりになろうとするの?」
「・・・愚問ね」
彼女は笑った。
もう言葉は必要ないと促されているような気分になった。
「それじゃあ、もう行くわ」
重そうにトランクケースを引きずりながら彼女は振り向きながらそう言う。
「お気をつけて、」
いってらっしゃい。
「おなかの子供、大事にしてね」
ふわりと笑って彼女は駅の改札口に流れていった。
その背中は死を覚悟した女の姿だった。
逝ってしまうのだ。
ぶわりと世界が、目の奥から滲んでいく。
私の幸せを心から願ってくれた人が、あんなにも自分の幸せよりも他人の幸せを願い続けてきた彼女が。
自分が幸せになる番を待つ前に。
鋼鉄と固い布生地に包まれた赤い軍服をあの細い身体に身に纏い、人の心を殺し続けて。
もう帰る事はない彼女の背中に今だけだと人ごみの中で泣き続けた。












「あーこないだ食べたアイスってどこで買ったんだっけ」
「え?あれ山本スーパーじゃないっけ?」
「あれそうだっけ?いやでも門山商店だったような・・・」
「それはアンタ、抹茶アイスのやつでしょ?」
「あれれ・・・」
「そういえばアンタがこないだやってたゲーム何?」
「ん?どれのこと?」
「ほら、ズバズバ人斬り倒してく奴」
「随分物騒な話に聞こえるんだけど」
「でもそういう奴だった、青い羽織着てる集団の」
「あー!!あれね、うんうん、名前なんだっけなあ」
「ええ、自分のでしょ?なんとかしなさいよ!」
「そうは言われても・・・、ああああなんだっけなあ」
「あああああたしまでなんか気になって仕方ない、もやもやする!」

でも見てるこっちは二人がもっともどかしくてもやもやします。











「隊長、いかないでください」
「・・・」
「ねえ、なんとかいってくださいよ。無理です、あんな人数で挑むだなんてっ・・・!犬死じゃないですか、なんで、なんで・・・」
「わかっている」
「じゃあ、なんで。死ぬ気なんですか。死ぬのが怖くないんですか」
「それはお前だろう」
沈黙。
「あなたが行くというのなら、私が全力で止めます、あなたを殺してでも」
首元に突きつけた刃を隊長は物怖じせずに跳ね除ける。
「死ぬのが怖いのなら、お前は何もせずに待っていればいい」
そういい残し、隊長達は言ってしまった。


そして時は戦が終戦を迎えた時、ようやく隊長が帰ってきた。
ああ、ようやくお帰りなんですね、すごく待ったんですから。
これから稽古つけてくださいよぉ、ああこないだみたいに一騎打ちみたいにやりましょう!楽しみにしてたんですから!
でも長い戦でしたし、今日は疲れたでしょう?ほら、どうぞ布団も用意されてますから!ゆっくり休んでくださいね?
そういえばこないだ隊長の大好きな花が咲いたんですよ、ほらなんていいましたっけ・・・水仙、水仙ですよ!
芽が出た頃隊長、すっごい喜んでましたよね。普段あんな男勝りで、乙女っていう要素ゼロなのに隊長ったら水仙の芽が出た朝から私の事をたたき起こして芽が出たって大騒ぎして。
私が男だって事全然意識してくれなかった事があの時すっごいショックだったんですよ?
でも、いいんです隊長が傍に居てくれるだけで私は嬉しいので、・・・ねえ隊長?聞いてますか?


ねえ、なんとか言ってくださいよ。
なんで返事してくれないんですか、相変わらず無口な人ですね隊長。

ところで隊長、頭はどこに置いてきちゃったんですか?


(わたしはあなたが死ぬのが怖かった)

初めて歯向かったあの日、意地になってでも止めればよかったと後悔するのも遅すぎた。









朝早くから目が覚めた。
めったに無い休日というにも関わらず、いつもの仕事の時間に起きてしまう自分に嫌気が差す。
リビングへ重い足を引きずりながらカフェオレを啜った。・・・苦い。
配分を間違えたな、と苦笑いしながら遮光カーテンを勢いよく開けた。
ここ3日悪夢に魘されている。
内容はそこまでえぐい内容ではないにしろ、中途半端で何だか後味の悪いラストの夢。
寝た気のしない朝を寝汗でびっしょりと濡れた身体を起こして迎えるのだ。
にゃあ、と小さく我が家の小さな住人である猫が餌を催促する。
気がつけばもう20をとっくに超えていて、オフィスワークや社会に溶け込んで面倒な会社恋愛に巻き込まれながらもなんだかんだ日々を送っている。
学生の頃は窮屈で無機質なOLなんてまっぴらだと思っていた。
小さなワンルームに一人と一匹の暮らし、決して贅沢とは言えないが、細々ながらまともに暮らしている。
でも何か満ち足りない。
恋しいと思うような人もいない、ただ愛が欲しいのかもしれない。
めいいっぱい愛情を注げて、相手も同じように返してくれるようなそんな存在。
誰もがきっと求めている物なのだろう。
晴れない心がせめてこの一日を充実させろと訴えかける。
仕方なしに始めた掃除も心ここにあらずの状態で、気がつけば辺りは優しい赤に包まれた。
もう、一日が終わってしまう。
こんなに早く一日が過ぎてしまうのに、一生はどれだけ短く感じるのだろう。
―ピンポーン、来訪を告げるベルが鳴る。
「はーい」ここに居ますよ、と返事のないドアに声を掛け急いで玄関に向かった。
「ごめん、来ちゃった」
「あ、いいよいいよ!良かったら上がって」
突然の来客者はかつて学生だった頃の友人だった。
学生の頃は仲がよく、実家暮らしだった時もお互いの家に行き来をしたものだ。
嬉しそうににんまりと笑う友人に心がじわりと温かくなる。
いつか来るお客さんの為に、と買ったティーセットとお気に入りのショップの紅茶とクッキーを手に再びリビングに戻る。
「突然にごめんね」
「ううん、気にしないで。・・・何かあったの?」
「今日出かけてて、近くを通ったから・・・良かったらこれ、こないだのお土産」
遠慮がちに手渡された白い紙袋の中に顔を突っ込めば、そこそこな大きさの四角い箱。
ありがとう、と小さく呟くと「どういたしまして」と得意げに微笑まれた。相変わらずいくつになっても変わらないな、この子は。
それから他愛もない話で盛り上がり、そろそろ帰る頃か、とちらりと壁に掛かった赤いポップ調の時計に目をやる。
生活感が滲み出ながらも無機質なカラーに覆われたこの部屋に一際映える、赤。私にこんな派手な色は似合わないなあと思いつつも雑貨屋で思わず手放せなくなってそのままレジに連れてきてしまった赤。
私の気を知らないで悠々と時を刻んでいく。
「・・・あたしね、実は・・・」
「え、ああうん、どうしたの」
「子供、できちゃったの」
へえ、そうなんだ、よかったね。相槌を打つかのように軽い返事、ああ私ってなんて嫌な女なんだろう。
口角を上げて喉から出た言葉は自分が思ったよりも冷たい色を含んでいて、サイテーだと心の中で悪態を吐く。
そんな私を彼女は全く気にせずにぽつりぽつりとまるで蛇口から漏れ出した水のように言葉を紡いでいく、本当に最低、女ってやっぱり最低だ。
「あたし、それで不安で・・・彼氏に言ったらきっと・・・、堕ろせって言われちゃう」
「・・・、うん」
なんてヘビーな話なんだ。
ずしりと重く圧し掛かるようなこの雰囲気の中、妙に冷静に考える。さっきまでこないだ行って来たどこぞの旅行の話を嬉しそうに語っていた彼女が今やお通夜のように暗い表情でぼそぼそと喋っている。
「あたしどうしたらいいかなあ、捨てられるの怖い、でも赤ちゃん、堕ろしたくない・・・」
「・・・」
「ねえ、聞いてるの?」
「うん」
もう何も言うまい、と小さくため息を零して窓を開ける。緩やかな風が部屋を満たすように私を通り過ぎた。
カチッ、カチッと軽快な音を立てて一服。煙草を吸いたかったのもあるが、彼女にこれ以上言葉を返す必要はないだろうという独断だ。
呆れたように彼女は半目でこちらを見据えながらテーブルに肘を突いた。
「まーだ煙草やめてないわけ?」
「やめないよ、多分一生」
「もう、結婚できなくなっちゃうよ?それこそあたしじゃないけど、妊娠したらやめなきゃ駄目なのよ?」
じゃあ今からやめろってか、と今度は私が呆れる番だ。
「いい、別に結婚なんかするつもりないし」
「そんな事言って、いつか結婚するもんよ?あんた特にあたしなんかよりさっさと結婚しそうだし、めっちゃ幸せな家庭持ちそうだもん」
にこにこしながら勝手に人の人生を思い描く、本当に彼女はとことん楽観的な思考だ。
「・・・あ、いけない、こんな時間」
はっとしたように彼女は椅子から立ち上がった。・・・午後七時十三分、彼女がうちにきて早3時間が経過していた。
「ん、夕飯食べてく?」
吸い終わった煙草の残骸を灰皿に擦り付けながら彼女の顔を窺った。
「今日はいい、ありがとう。あースッキリした!近いうちに彼氏に言ってみるよ」
「そう、なんかあったらまた電話してよ」
にんまりと彼女特有の笑みを浮かべて、パタパタとスリッパを鳴らしながら玄関に歩いていく。
それにゆっくりと着いて行きながら玄関までのお見送り。
「じゃあ、また」
「うん、またね。・・・ああそうそう、次は電話じゃなくてちゃんとまた此処に来るから」
きょとんとした私を尻目に彼女はどや顔をしてやや重い玄関のドア閉めていった。
また来る、か。その時には朗報を待とう、結婚報告と言う名の朗報を。
彼女が身重という自覚も無くバタバタと駆け足で人の名前を大声で呼びながらうちに突撃する光景を想像して小さく笑う。
いつか、彼女の言う幸せが理解できるその時には、彼女に幸せだと報告したい、そんなふうに思いながら。










ああ先輩、そんな泣き腫らしてブスが際立ちますよ?
聞いてるんですか?そんなんじゃアンタが好きな人にだって振り向いてもらえないんすからね?
あ、今盛大に鼻かみましたね?あんた女なのに俺の前でそんなぶーぶー鼻かまれたら夢もクソもないじゃないですか、どうしてくれるんですか。
ちょっと思い出したんですよ、先輩。
先輩の大事にしてる相棒のハルバードの先に饅頭刺したの、俺ですからね。
あと盾に酒乱って書いたのも俺です、こないだ寝てる先輩の額に肉って書いたのも俺です、やだなあ無視ですか?そんな怒ってるんですか?
執念深い女は嫌われますよ?ハハッ、元々嫌われてるか!
そんで、これからは少しは女らしくしないと嫁の貰い手に困っちゃいますよ?俺じゃアンタをもう幸せに出来ないんだから。
出来る事なら俺がもらってやる!って男らしい事言ってやりたかったんですけどね、そうもいかないっぽいです。
―ちょっと、今俺の服に鼻水つけたでしょ!先輩まじでやめてくださいよ、それ俺のお気に入りなんすから!聞いてんすか!?
ところで先輩、先輩の好きな人無事でしたか?
あんな男やめといたほうがいいっすよって前言ったんすけど、嘘です。
ちゃんとあの好きな人落として、いつか結婚して子供もって幸せな家庭築いてくださいよ、じゃないと俺報われないじゃないっすか。
あの男、いい男っすよ、なんせ死にかけた俺の事めっちゃ心配してくれてもう助からないってわかってるのに必死に応急処置までして、そんでもって最期のその時には大泣きしてくれたんすから。
俺が好きになったくらいのいい女が好きになった男なんすから、当たり前ですよね。

ああ、まあ聞こえていないでしょうけど。
そろそろいきますね、先輩。
先に待ってます、もっと遅く来ていいので気長に待ってますから、たくさんの土産話期待してますね。




(あなたの隣は居心地がよかった)














「隊長、」
我慢の限界だった。
黴臭い六畳間に男が二人肩身狭く正座している光景はさぞかし滑稽な姿だろう、そんな風に思い私は口火を切った。
「何、」
やや憔悴しきった目がそれでも先日の戦場を忘れさせない鋭い目線を私に見せる、まだ齢二十かそこいらの隊長は私より幾つか若い、それなのに時折こうして全てを悟りきった翁のような
疲れ果てた表情を見せるのだ。
「もう少し、ご自愛を」
声を掛けたが次の言葉が見当たらず、言葉遊びをするかのようになんでもないような言葉を結ぶ、隊長はむっとしたように眉間を寄せた。
「それ、僕に言ってるの?」
「いけませんか」
「この間の醜態を、見せただろう。滑稽なら笑えばよかったのに、」
隊長は言いかけた言葉を噤み、やがてうな垂れるように顔を伏せた。
紺色に輝く黒髪をぼんやりと見ながらこの間の戦いを思い出す。
・・・隊長は、もう長くないだろう。
隊長の体は病魔に侵されていた。
先日の戦いでもそうだった、病気の発作を起こし一瞬の隙を突かれ命を落としかけたのだ。
あの時私がいなければ今頃は、と思うとぞっと背筋が粟立つ。
「滑稽などとは、思いません。・・・けれど隊長はもう少しご自分を大切にしていただきたい」
「・・・」
「聞いていらっしゃいますか」
「・・・あの時、」
ごほっと隊長が小さく咳き込んだ。
掌には真っ赤に花咲く血が零れ落ちる、嗚呼またこの人の命が削られているのか。
「あの時、僕は死んでもいいかなと思った」
「隊長!」
「・・・お前が来なければ、多分僕は抵抗せずにそのまま首を斬られていただろう」
「やめてください・・・!」
「武士として死ぬことが、侍の誇りなんだよ」
隊長はようやく顔を上げてこちらを向いたかと思えば、まるで死にに行くような人の顔で微笑んだ。
なんだ、なんなんだ。
理解が出来なかった。
ぼんやりと蝋燭の光が隊長の顔を照らし、その微笑を浮かび上げた時にぎゅっと胸が締め付けられるような違和感を感じた。
・・・儚いと、思った。
「・・・それなら、私が救った命すらも厭わない、と」
「それは違う、あの時の事を僕は忘れやしない・・・、感謝する」
はっとするように顔を上げると、隊長はよしよし、と赤子を宥めるように頭を撫でてきた。
「なに、するんですか・・・」
「・・・すまないね」
「そう思うのならば、!」
「・・・あと僕に残されているのは、ただこの病魔が体を侵食しきるのを待つ、それだけなんだよ」
隊長がぼそりとそういい残すと、「もう出てってくれない?」と苦笑いして追い出された。
かつて鬼のように強いと謳われていた隊長はもういない。
国の為、組の為にと刀を振るわせてきた組ももう無い。
全てを無くしてしまった隊長は牙を抜かれたやせ細った狼のようだった。
隊長の最期を見届け、そして私もその後を追うようにこの国の最期と共に散ろう。
それだけが、今の私の願いだった。










「あいしてる」
「うん」
「あいしてるんだ」
「・・・うん」
「おまえ、は?」
「なあに」
抱きしめられる腕が痛い、と私は彼の腕の力を少し咎めるように軽く押した。
気がついていないのかわざとなのか定かではないが、彼は力を緩める気は全く無いらしい。
「お、れは、あいされたい」
「うん」
「おまえもおれにあいをくれないのか」
「・・・」
彼は情緒不安定になると、まるで子供のように駄々を捏ねる。但し子供のような軽いもんじゃない、時にはあいしてると言うまで首を絞められ続けるのだ。
ああ今回は圧死でもするのか、と自嘲気味に笑っているとぼろぼろと彼の瞳から涙が零れ落ちてきた。
「あぁぁああぁ」
ため息を零すように嗚咽があふれ出る、ひどい、まるで悲鳴みたい。
「でもわかっているでしょ?」
「・・・」
泣いている彼の腕の力は一向に緩む気配は無いが、こじ開けるように無理やり自分の腕を引っ張り出すと彼の背中に腕を回す。
ぽんぽんと、落ち着いたリズムで赤子をあやすように彼の背中を叩く。
「私は哀れむようにしか愛せない」
「・・・」
そう、これは同情なのだと言い聞かせる。
彼がほしかった愛情はこれじゃない、そう言い聞かせて封をする。
そして彼はまた駄々を捏ねる、愛が欲しい愛が欲しいと。
「うぅう」
どうか捨てないで、と彼が小さく嗚咽した。
普段の彼からは想像も出来ないような弱りきった姿、こんな姿彼の部下が見たら卒倒するだろう。

もっと泣けばいい、そしてもっと愛を乞えばいい。
私は愛は与えられないのだ、でもこうやって傍に居ることは出来る。
こんな風にしか傍に居られない私を友人達は口をそろえて言うのだ、歪んでいると。
だって私達は姉弟だから。








「は・・・?」
「あ、あーあ、まったく余所見しちゃってさあ」
いつも憎たらしいあの表情が痛みに引きつっていた。
「なん、で」
「ばかじゃないの」
「なんであたしなんか庇ったり、」
「本当にバカだよねお前、腐れ縁なんだよ、俺とお前」
「だからって庇う理由なんか」
「どちらか、一人欠けてもダメなんだよ」
「・・・」
ぐらりと崩れるあの憎たらしいアイツが見ていられなくてあたしは思わずその身体を支える。
「どういう、風の吹き回し?」
「どちらが欠けても無意味なんだろ」
ふん、と鼻を鳴らしてあいつの肩をあたしの肩にまわして支える。
「帰ろう」
「・・・ん」
戦いは終わらない。
きっといつかこの腐れ縁の幼馴染とすらも引き離されてしまうだろう。
それだけ大規模な戦争だった。
そのいつか来る別れがあたしはただ怖かった、けれど何もしてないままその関係を崩されるのは癪だった。
だからあたしは刀を振り続ける。
強くあろうとした、これからもずっと。
「何、こっち見てんの。惚れた?」
「馬鹿言ってると置いてくぞコラ」
この忌々しい腐れ縁の背中を守る為に。










「あ、てめえまた人の・・・!」
「コラコラ、女の子なんだからそんなてめえとか汚い言葉使っちゃダメでしょ〜?」
「お前が一々ちょっかい出すからだろうが!」
「ほーらまたそうやってすぐ刀に手を出す!暴力反対!ダメ、絶対!」
「なんでもかんでもネタにすんじゃねえ!ちっとも面白くないんだよボケ!」
「あーあー嫁の貰い手がなくなっちゃうよ?そんな暴力的で口が悪い女の子はー・・・」
「別に結婚願望なんかねえんだからいいだろうが!」
「んじゃ、いつかまだお前が結婚できない残念な女の子だったら」
「は?」
「もらってあげようか?」
「・・・は?」
「・・・なーんてね!冗談に決まってるでしょ!ほーらすぐまた真に受ける!そういう所本当に素直だよねえ」
「てめえ今すぐ斬ってやるから覚悟しやがれ!」
「あはははー!!」



「ちょ、ほらそんな風に子供扱っちゃだめでしょ!まだ首も座ってないんだから!」
「あ?何が違うっていうんだよ」
「女の子なんだからそれぐらいの知識備えてよね!ああ・・・ほら泣き出しちゃった」
「お前がでかい声でわめくからだろ!」
「聞き捨てならないなあ、君が最初に怒鳴ったんでしょ!いいからほら抱っこしてあげて」
「ふん・・・しかしこれがあたしの子供か・・・」
「・・・そうだよ、俺たちの子供なんだよ」



「なんだかんだあの二人っていい夫婦だよね」
「いつかこうなるってわかってたけどね〜」
「いつくっつくんだか心配だったけど、なんとか無事にくっついたみたいね」

(まだまだ遠い未来の話。)








Titleby:花涙+