俺のヒーロー、と名乗った馬鹿という名の不審者と出会ってから早々1週間。
相変わらず俺は引きこもっている。
あの不審者が変な事を言った瞬間、コイツは頭がおかしいと瞬時に察して脳が反応するより早く足が動いた。
・・・そう、逃げたのだ。
引きこもって何かをするわけもなく、ただただ部屋の天井の一点を見つめる。
あの不審者に会ってからロクなことがなかった。
真っ白で何もない、空虚の部屋のとある部分に一つの染みができたのだ。
それがリビングの天井のほんの小さな染み。
俺は目がいいから、針のような小さな小さな染みだって見えてしまうのだ。
コンコンコン
「・・・?」
どこかで何かガラスを軽く突付くような音が聞こえる。
コンコン
キョロキョロと辺りを見回すと、寝室のほうから音が聞こえるようだ。
ビクビクしながら扉をあけて、カーテンもあけてない薄暗い室内を見渡す。
コンコンコン
まだ音は止む気配はない。
明かりがないと見えないな、と思って電気をつけようか一瞬悩んだが結局昼間ということでカーテンをあけることにした。
「っんなあ!?」
「やあ!やっと気づいたんだね!全く大丈夫かい?」
カーテンをあけるとそこにはついこないだ不審者と判断して即逃げた時のアイツがいた。
「な、なんでなんでお前いるの!?何、なんなの?ストーカー?」
怒りと驚きと困惑が混ざり合って上手く舌が回らない。
「何で、って、君がいるからだよ」
きょとんとした表情をして窓に腰をかけながら男は言った。
相変わらずの白装束である。
「何言って・・・!?、警察呼ぶぞ!」
「警察なんて呼ばないで、僕を呼んだらいいんだ」
話が噛み合わない。
やはりコイツは頭がおかしいんだ、そう思い尚更焦りは強くなる。
まだ驚いた衝撃がでかいのか、心臓はバクバクと早鐘を鳴らしている。
「苦しい、悲しいって、言ってるんだよ」
「・・・?は?」
「君の心が確かにそういってるんだ」
そっと目を閉じて男は言う。
よくみればまだ若い、10代ぐらいなんじゃないだろうか。
「頭、沸いてんのか」
「頭はヤカンじゃないから沸かないよ」
「そういう意味じゃなくて、」
「君は言葉にすることが出来るのに、ソレをしない。言葉にしなければ伝わらないことだって、たくさんあるのに」
男、否白い青年は出会った時のように再び手を伸ばしてきた。
「苦しいなら叫べばいい、悲しいなら嘆いて、泣けばいい、嬉しいなら笑えばいい。君は口にすることもなく、ただただ黙りこくっているんだ」
手はそっと俺の何もすることなく垂れ下がった腕にそっと添えられた。
「・・・ほぼ初対面で、俺のことなんか知らないお前になんか言われたくない!」
ぼーっと聞いていたが、意味をようやく理解すると怒りが込み上げて来て声を荒げる。
すると白装束の青年は一瞬悲しそうな目をしたがすぐに胡散臭い笑顔に戻って落ち着いた口調でこう言った。
「初対面であろうが、顔見知りでも友人でも、身内でも関係ない。たとえば君を知らなくても、関係ないんだ。これから少しずつ知っていけばいい、ただそれだけだろう?」
「は?俺はアンタなんかと関わるつもりなんて一切、」
無い、と言いかけた所だった。
「俺は君のヒーローなんだ。だから、大丈夫」
何が大丈夫なんだよ、と喉元まで出掛かった声は発されることなく掻き消えていく。
あまりに悲しそうに笑うから、咎める気力すら失ってしまった。
「・・・所でアンタ、何しにきたの?」
ここは一応2階なのに、それでもって街からだいぶ離れた住宅街なのに。
「言っただろ?僕は君を救いにきたんだ」
ぐるるる、と盛大に腹を鳴らしたヒーローは格好つけてそう言った。
心に出来た大きな水溜り
(・・・上がれば)(いいのかい?)
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