私は左利きである。
左利き戦争
「あれ、お前左利きだっけ」
「そうだ、何か文句あるか?」
「なんでそう喧嘩腰なんだよお前・・・」
「気のせいだ、で突然どうした」
教室で居残り補修中の話である。
春になり、段々日が長くなって夕日が私たちを照らしていた。
「ん〜ああ、俺右利きだからさ、どんなもんなんだろうな〜って。左利きって珍しいじゃん?」
朗らかに言うアイツはシャープペンシルをせわしなく動かしていた手を止めてふいに大きく伸びをした。
「・・・はっきり言うと不便だ、うむ」
「へえ・・・?たとえばどんなふうに?」
「改札でわざわざ左から右に持ち替えたりだとか、お釣りを受け取る時左で受け取りそうになって右に変えたりだとか、握手する時も左ではなくて右でやらなくちゃいけない時だとか・・・」
「わかったわかった、とりあえずストップ」
湧き出るように出る日常の不満を並び立てていると休止の声が上がり口を噤む。
・・・自分から言ったくせに。
「んまあやっぱ右利きって便利だな〜」
「ハサミとか選ばなくてすむしな」
「・・・お前・・・」
「なんだその優越感に浸った目は!」
「因縁つけてんじゃねえ」
「気のせいだ」
「そうか」
ポンポンと弾む会話中、消しゴムを投げつけてみた。
あいつは右手でキャッチして余裕そうな表情をした。
・・・忌々しい。
「なんだよ」
「・・・気のせい」
「どう考えても気のせいじゃねー!」
そういいながら私に消しゴムを手渡した。
「・・・あ」 「・・・」
消しゴムを受け取ろうとしてばしり、と軽く衝撃が走る。
右手で消しゴムを渡そうとしたあいつ、それを左手で受け取ろうとした私は手がぶつかった。
「やると思った」
「いや、その、悪気はないんだ」
「わかっちゃいるさ、右利き中心の世界なんだから」
「・・・わるかったって!」
「ふん」
軽く鼻で笑って再び補修の時間に没頭し、空が黒く染まった頃にようやく学校から開放された。
「そういえば、こんな話しがあるのを知ってるか?」
「なんだ?」
「右利きは左利きより10年長生きすると言われてるんだ」
あいつは「おぉ!」とか嬉しそうに声を上げた。
別にあいつを喜ばせるために言ったわけなんかじゃない。
「その原因は、右利き中心に作られた世界で左利きが生きるのには適しておらず、ストレスなどで事故死しやすいことから言われているそうだ」
「・・・え?」
春の生暖かい風が頬を過ぎる、あいつの表情は長い前髪に隠されて、夜の暗い空が一層に見ることを許さない。
「・・・・・・お前って、ストレスとか感じるの?」
その瞬間私の平手が飛んだのは言うまでもない。
(どこまでお前は失礼な奴なんだ!)
(気のせい気のせい)
(真似をするなっ)
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