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「人間っていうのは、人を愛するために生まれたんさ」


「・・・」


人間という生き物は、よくわからない。






ぷわりぷわりと白い煙がヤツの口から舞い上がる。

白い筒に火をつけて吸い、それを肺に入れて吐き出す―煙草、というらしい。





「ソレは美味しいのか?」

「ん〜?何何、カミサマでもこういうの興味あるの?」



ヤツはソレと指されたモノをニヤニヤしながら私に差し出してきた。


ヤツは私をカミサマ、と呼ぶ。
たしかに人ではないし、かといって人に危害を加える獣とも違う。

むしろ人を祝福し、幸せを願う―人ではないナニカ、なのだ。



吸いかけの煙草をまじまじと見るとなんの変哲もないただの紙に見える。


ゆっくりそれを指先の間で受け取って真似をするように吸ってみる。



「そうそう・・・それを肺に吸い込んで?」


「どう吸えと・・・?」


「深く吸い込めば入るよ」


そういわれてみて深呼吸するように吸い込んでみれば途端に強い煙を吸い込んだような肺の痛みに襲われ咳き込んだ。


「あーらあら、やっぱカミサマには合わないんじゃなーい?」


「・・・人間はこんなものを吸っているのか」


「んまあ、吸ってない人もいるだろうよ」


「体には・・・」


「勿論悪いねえ、寿命は明らかに縮むだろうよ」


「ではっ・・・!」


なぜそんな寿命を縮めるようなモノをわざと吸うのだ。

私は幸せを願うナニカ。

長く生きて寿命を全うし、幸せな死へ続いて欲しい、それなのに。


「あのねえ、カミサマ。長く生きれば幸せとは限らないんよ?」


「・・・どういうことだ」


「苦痛が永遠に続くなんて人は願わない。人は、生まれた頃から死ぬために生きるのだから」


「・・・」


違う、と否定しかけた言葉を飲み込んだ。

私は人ではないから。

本当のことなんて、わかれるわけがない。

そう考えると胸にずきりとした重い痛みが走った。



「俺の場合は、余計な事を口ずさまないために煙草を吸っているんだ」


「余計なこと・・・?」


「昔好きな人がいた。その人には家庭があった。叶わない恋、当たり前だよねえ・・・? だから、その人に好きだと言わないように。愛してだなんて、間違っても言わないように」


「・・・それ、は・・・」


今でもなのか、言いかけた所で彼は笑顔で制した。


「だから、ずっと俺は煙草に頼ってる。余計な事を言いかけてまた離れて置いてかれるのが、怖いから」


「私は・・・お前を置いてはいかない」


「信じられない、悪いけど。」


「・・・そう、だな」


「もう俺は人もモノも、生き物も信じられないから、だから・・・、それでも俺は自ら死ぬ勇気すらない」



彼は自殺まで考えたことがあるなんて思いもしなかった。

いつも飄々として明るくて、いい加減でガサツで・・・

そんな彼がこんな思いを抱えて生きていたなんて。



「だから、俺はこの悪夢を早く終わらせるために煙草を吸うんだよ」


煙越しにかかる笑顔に、煙がなんだか目に染みて涙が溢れた。







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