「なあ、誕生日プレゼント、何がほしい?」
明日はそういえば、あいつの誕生日だなあなんて柄にもなくふと思い出して口にした。
あいつは不思議そうな顔をしてこちらを見ていた。
・・・なんだこの空気。
かたちあるもの、
「意外ですねえ、記念日だとかそういうものに無頓着な貴方がそんなことを口にするのは」
くすくすと笑いながらあいつは言った。
なんだか口にしたら恥しかかかなかったような気がした。
「うっせー!・・・んで、お前何ほしいんだよ」
「ん〜そうですねえ、やっぱり貴方が・・・」
「だーもう!!そういうのじゃねえの!何か時計〜だとか、万年筆とか、そういう物だって!」
そういうとあいつは困ったような笑い方をして、ふいにあいつの元へと引き寄せられる。
「・・・形あるものは、いずれ崩れるんです。」
「・・・うん」
「なら最初から無くたって構わない、だから物なんてほしくないんです」
ゆっくりアイツは笑った。
たしかに、あいつは自ら進んで何かがほしいと口にしたりしなかった。
「・・・なら、何がほしいんだよ」
「ほしいもの、ですか。」
うーん、と軽く腕組みをして考え始めた。
物欲がないというか、欲がないやつだった。
昔から、ただそばにいるだけの存在。
空気のように軽くて、気がついたらいつもそばにいる。
「あぁ、浮かびました」
「おー!何がほしいんだ?」
やっとか、と思いヤツに向き合うとヤツはやんわりと微笑んだ。
「・・・ただ、そばにいて、”おめでとう”って言ってくれればそれだけで、幸せです」
「・・・そんなんでいいのかよ」
「いいえ、貴方に祝ってもらうことに意味があるんですから。」
相変わらずヤツは変なことを言うなあなんて思った。
「それに・・・、形あるものはやがて崩れます。けれど、言葉と人だけは消えません、絶対に」
「人間だって死ぬだろ」
「生きますよ、たとえ体が朽ちても。ずっとずっと、誰かに想われて、人は生き続けるんです」
「思い出、ってやつ?」
返事はなく、ただお互いの体温だけがその答えだった。
「なあ」
「はい?」
「生まれてくれて、ありがとう」
午前0時を迎えた頃のある夜中の出来事だった。
(・・・ありがとう)(これからも、よろしく)
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