落日
正義のヒーローなんて所詮子供騙しのヒーロー劇。
悪を許さず正義を愛す。
・・・人にそんな事が出来る者なんて、いるわけがない。
「さあさあ!今日もいい天気だ!外へ出ようじゃないかァ!」
「やめろ、うるさい、暑苦しいんだよそのノリ」
ヒーローと名乗った馬鹿は飽きもせず相変わらず人の部屋に入り込んでくる。
一体どんな身体能力があるのか知らないが、2階の窓に毎回張り付いている。
・・・アレか、実はヤモリかなんかなのだろうか。
「どうしたんだい?さあさあ出るよ!」
「うるせえよ、腕ひっぱんな、痛いんだっつうの」
腕を引っ張りながらさあさあ!と催促するヒーローに若干殺意が沸きながらも、何もすることなく仕方なく外に出る準備でもするか、と重い腰を上げる。
リビングの天井には相変わらず小さな染みがあって、なんだか段々大きくなっているような気がした。
ヒーロー馬鹿と出会って、ヒーロー馬鹿が居る日常に慣れてやや3週間。
あの染みは一体なんなんだろうなあ、なんて考えているとヒーローが横に並んで同じように見上げてみせる。
「・・・なんだよお前」
「キミが見ているから、気になったんだよ」
「相変わらず訳わかんねェ」
踵を返して自室に戻って着替えようと思い直した時、ふいに腕を掴まれる。
「・・・あ?」
「あ、いやなんでもない、すまんな!」
アハハハハ、と軽く笑うが掴んだ時の表情があまりに印象的で思わず文句を言う前に口を噤む。
何か、何か大事な事を言わなくちゃいけないような、そんな表情をしていた。
でもためらった。
何が理由かも、何を言いかけたのかもわからない、けれど確かにそれはきっとアイツにとってはとても大事な事だったのだろう。
「おらいくぞー」
「そうだな!うん、今日は実に天気がいい!」
大げさに腕を振り上げてニコやかに言う。
別に大して変わりもしない、コレが日常、当たり前になってきた。
「・・・お前さあ、なんで俺んとこくるわけ?」
別に他でもよくね?的なノリで俺は言う。
「キミだから僕はくるのだよっ」
なんてったって僕はキミのヒーローだから!
お決まりの聞き文句にお決まりの返し、これを毎日のように聞く。
それでもあいつはどんなに聞かれても同じように、笑顔で答える。
「・・・まぶしい」
「そうだな!うん、新緑の夏だからな!」
「・・・元気だな、夏バテとかアレはないのか」
「ない!」
「・・・そうか」
ヒーローはどうやら病気はしないらしい。
「どっか行きたいトコあるか?」
「君が望む場所ならどこでもいいさ」
なんでこう、同性に言われなきゃならんのだ。
「腹へってないか?」
「僕よりも君はどうなんだ?歩き疲れているだろう」
「俺は別にいいんだよ!」
「よくない!」
「・・・」
ヒーローは市民Aが大事ならしい。
「お、夕日」
「ん?おぉ本当だな、綺麗な夕日だぞっ!」
「さー帰るかァ」
「そうだなっ」
「テメエは自分トコ帰れ」
どさくさに紛れて人の家にまた上がろうとするヒーローを一蹴する。
ひどい!なんて言いつつも笑ってヒーローは夕方の18時になると帰っていく。
なんだか小学生の頃に戻ったような、そんな感覚だった。
落日
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