Sweet?

大好きな彼の夢を見て、甘い朝の余韻に浸りながら改札をくぐって数分。


会社にようやくついて、朝の挨拶をしきりにしているところに彼が通りかかって私にこう言ったのだ。




「俺、結婚するわ〜」


ふいに出勤するとそんな声が上がった



「･･･そう、おめでとう」


ばれないように、繕う様な笑顔を見せると彼は幸せそうな笑みをこぼしながら、「ありがとう」と呟いた。




私ではない誰かと結婚する彼。




一目惚れした瞬間から今までの片思い履歴2年、案外儚く散ったものだ。




地味に彼に見てもらおうと必死に髪を綺麗に毎日結んだり、たまに下ろして耳に掛けたり、濃くしていた化粧もやや薄くして清楚目指していたのも、もう必要なくなってしまう。




彼好みになれば彼が落ちるわけではなくて、彼に見てもらうために必死だった自分がもしかしたら好きだったのかもしれない･･･そう思い、尚更むなしくなって唇をかみ締める。



花のような、化粧品の香料が鼻腔をくすぐるような感覚に思わずはっとすると一、二を問わず真っ先に彼の表情を伺った。




･･･彼にはどうやら気づかれてないようだ、とほっと胸を撫で下ろすと、今だに彼のことを気にしている自分に呆れてしまった。




「お？どうしたんすか〜そんな怖い表情して！」

「な、なんでもないよ？」




降りかかってきた声はやはり彼の声で、少しでも気に掛けてくれたことに少しでも期待してしまっている自分が居て、なんだか辛い。




「ご結婚、おめでとうございます」



振り絞るような声で2回目の祝い事をたたえた。


それは自分の気持ちに対する諦めのための一言。



「･･･まだもしかして気がついてない？」

「･･･は？」

彼は困ったような笑みでそんなふうに言う。


何のことを言っているのだろうと脳内を探るがイマイチ思い当たる節はないようだ。


「･･･今日は何月何日でしょうか」


「･･･4月1日」


「正解。ようするに、」




ああ騙された、そう思うとなんだか居心地悪くなって大好きだった彼の前だけど、思わず逃げるように勤務室を後にした。



（エイプリルフールなんて、なくなればいいのに！）




Sweet?