致死量に至る毒

モクジ

「永遠の愛、って存在すると思う?」
珍しく口を聞いたと思えばそんなことをやつは言い出した。
















「永遠の愛?」


「そう、ドラマでみたんだ。なんだったかなあ、ヒロインが彼氏にそんなことを言うシーン。キミは永遠を信じる?」


事もなさげにそうヤツは言うと、病人特有の白い顔が挑戦的な表情に変わる。

「・・・どうだろうね、俺は・・・信じたくない、かな」
「そうだと思った!僕もだよ」

心底嬉しそうにヤツは言うが、きっと俺たちは歪んでいるのだろう。


ヤツは、もうじきいなくなってしまう。
病に冒された体はやがて体力を失って力尽きるそうだ。


恋人のような不思議な関係であるけれど、大して情は沸かない。
沸けないのだ。
他人に興味がなく、怒るも悲しむもない。
無関心、無干渉、いつからこうなったんだろう。

「キミはさあ、僕と同じで人間嫌いだものね」

「けどお前は俺のことを好きじゃないか」

「そうだね。でも嫌いだよ、人間なんて大嫌い。賢い子はもっと嫌いだよ」

たとえば、お前の病が死に至る病であることだとか?とそう聞きたかった。

「それは俺がバカだといいてえのかよ」

「あははははは、そんなことないってえ!」

呼吸器をはずして盛大にヤツは笑った。

「おい、呼吸器、つけろよ」
「へーきへーき、これぐらい大丈夫だって」

心配しすぎ、とへらへら笑いながらあいつは言った。

目の前で死なれたら後味悪いだろ、なんて言いかけた自分がバカみたいに、ヤツは俺が来ると嬉しそうに笑うんだ。

「僕は幸せ者だなあ」
「はあ?」
「だってずっとキミがきてくれてるもの、寂しくない」

無邪気にそう笑いかけられて思わず返答に困った。
それを察してか、ヤツは続けていった。

「僕は幸せだから笑うんだ。僕もキミもきっと、信じあってる関係ではないだろうけれど」

「そう、だな」

「信じなくても笑いあえるよ、だから僕は幸せなんだ」

それを=でつなげられるのか?と聞く前に俺は無言で病室を去った。


その3日ほどした頃だろうか、ヤツは自殺した。
オーバードーズという、大量薬物摂取によって自ら命を散せた。

お通夜の夜に見たやつの顔は幸せそうな表情なのに、泣いたのだろうか

わずかに目の腫れた後、

幸せだったのに、泣くのか
俺を置いて死ぬのか

そう問いかけたらヤツはきっとこう答えるだろう



「幸せも致死量に至れば毒になる」


ヤツが昔言っていた言葉だった。

思い出すと何故か頬にうっすらと懐かしい感覚の何かが流れていった。



(どうせなら、つれてってくれれば)


モクジ
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