―・・・今でも俺ァ覚えている。
この世で最も気高き処刑を。
もう何十年前のことだろうか、けど今でも色褪せることなく色鮮やかに覚えてるぜェ。
とある不老不死の処刑だった。
そいつァ、世界政府に反逆した罪を問われ御用になった身。
けど元伯爵の不老不死だけあって、覇気がすごかったんでィ。
処刑台に連れられ、どれだけぼろくさい服に着せ替えられても威厳があった。
高価な服や綺麗な宝石なんかつけなくったってアイツァ生まれながらの貴族のようだったぜ。
決して下を向くことなく、真ん前の・・・見物人を通り越してその先を見据えていた。
『・・・何か言い残す事はあるか』
『何言ってんだ?アンタ、言い残す事なんかじゃねえよ』
『屁理屈はいいっ・・・!さっさと思い残すことがあれば言えっ!』
処刑人の最期の善意なんだろうか、言葉の割りに表情は哀れむようなそんな目だった。
すっと不老不死の伯爵は息を吸い込んで、それを口にした。
『不老不死の人間が死ぬ時とはどんな時か?
―――銃弾に撃たれて?
――――――・・・違う。
―――ナイフによって心臓を貫かれて?
――――――・・・違う。
―――化け物扱いされて、元は同じであった人間の手にかけられる時?
――――――・・・違う。
同じ時代を生きていたはずの人間に、忘れ去られ、先に消え去られた時だ。
てめェらなんかに殺されやしねェッ!』
そう高々に彼が宣言した瞬間、不老不死を唯一殺すことの出来る"石"で出来たギロチンが彼の首元に振りかぶった。
不老不死の伯爵がふいにその頃ガキだった俺に気が付いたのか、小さく笑ったんだ。
その瞬間見てられなくて目を硬く瞑った。
けれど聞こえるのは刃が首を刎ねる音ではなくて、人々のざわめき声。
なんだか様子がおかしいと思って目を少しだけ開いてみたんだ。
するとよォ、不老不死の伯爵が拘束されていた腕でギロチンを止めやがったんだ。
そんで一瞬で消え去っちまった。
あっという間だったんだ。
処刑人も目をまん丸にして探し回ったけどもうすでにそこにゃいなかった。
不老不死はまだ生きているんだろうよっ!俺もこんな年になっちまったけど、また会いてぇなあ!
「・・・ほぉ、そんな処刑があったのか」
「おうよ、俺のガキの頃んときの一番斬新な思い出だぜ」
俺の酒場で俺の自慢話に耳を傾けてくれていた旅芸人は小さく頷いた。
顔や頭こそ隠れて見えないが、きっと人当たりのいい顔してるんだろうなァ
「お前ェその変な羽帽子とマント、取らねェのかい?」
すると旅芸人は一瞬驚いたように肩をびくりと揺らし、そして盛大に笑うと答えた。
「あとで取るよ」
しばらくまた酒を呑みながら軽く談笑して、会計を済ませると約束だ、と言って羽帽子とマントを脱ぎ捨てる。
赤銅色の跳ね上がった髪に同色の瞳をほころばせて、旅芸人は笑って言った。
あの日の笑顔のまま、何も変わらず。
「ごちそうさん、ボウズ」
『こら!死刑囚に話しかけるんじゃないっ!』
『・・・!いつか、いつか俺シェフんなるから!だからそれまで・・・生きててくれよぉ!!』
『・・・ああ、きっとな』
約束
(生きててくれてありがとう)
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